2002年11月日本科学哲学会大会発表原稿要旨:  様相論理の意味論として広く知られているものは、可能世界意味 論が殆ど唯一のものである。しかしながら、特に様相述語論理では、 可能世界意味論は数学的に非常に難解な問題を惹き起こす。このよ うな場合には可能世界意味論は左程有益とは言えない。本研究では、 そのような反省に立って、可能世界意味論とは違った様相論理の意 味論を提案する。  本研究では文脈意味論を提案する。これは様相記号が論理的妥当 性を表すような様相述語論理に対する意味論である。論理的妥当性 の様相とは、ある限定された仮定の許での論理的帰結を表現する為 の必然性様相である。ここで必然性と呼ばれるものは、形而上学的 な必然性ではなく、論理的に結論されるかどうかを表す論理的妥当 性のことである。この意味論は、論理式を有限的な情報によって意 味付けするという点で可能世界意味論とは大きく異なる。  様相論理の論理式 p の解釈は文脈によって為される。 『 C; D |= p 』と書いて、 「文脈 ( C; D ) の許で p は真」と読む。 C と D は、C ∪ D が無矛盾となるような 古典論理の論理式の有限集合である。 この C を透過文脈と呼び、D を不透過文脈と呼ぶ。 『 C; D |= p 』は p の構成に関する帰納法で定義される。 ● 原子論理式 a に対して『 C; D |= a 』とは、 古典論理で『 C, D |- a 』が証明可能ということである。 ● 『 C; D |= p ∧ q 』とは、 『 C; D |= p 』かつ『 C; D |= q 』のことである。 ● 『 C; D |= (x) p(x) 』とは、 任意の項 t に対して『 C; D |= p(t) 』が成り立つことである。 ● 『 C; D |= ¬p 』とは、 D ⊂ D' かつ C ∪ D' が無矛盾となる 任意の文脈 ( C; D' ) に於いて、 『 C; D' |= p 』とはならないことである。 ● 『 C; D |= □p 』とは、『 C; |= p 』のことである。  この意味論によって定義される論理は、S5 様相論理によく似たものとなる。