この章では,コンパイラ内部で行われる一連の変換処理のうち,一番目の変換である正規形 (normal form)への変換を扱う.
Note: この章で扱う中間表現である正規形は,一般にA正規形・K正規形などの名前で知られている中間表現の仲間である.この章の中間表現が,それらの表現のどれかと正確に一致していると言いきれる自信がないので,単に正規形と呼ぶことにしている.なお,専門分野によっては,まったく別の概念を指して正規形と呼ぶことがあるので注意.たとえば,プログラム意味論や項書き換え系では,それ以上簡約できない項を正規形と呼ぶ.
正規形は,講義テキスト5.3節の言語と対応しており,式の評価における計算順序を明確化することがその目的である.計算順序を明確に表現する上で両者の構造には少し違いがあるものの,MiniML言語(正確には抽象構文木)から正規形への変換は,講義テキスト5.4節の変換と本質的には同じである.